夢の実現を邪魔するのは自分

ポジティブ思考が夢の達成にどれほど役立つ?

そんな素朴な疑問を持って始めた研究が、実は真逆の結果が出るとは博士自身も予想していなかった。1985年当時は「西ドイツ」と呼ばれた地域出身の心理学者ガブリエル・エッティンゲンは、「人は積極的に夢を描くなら、人は夢を実現するように突き動かされる」と考えていた。

そんな研究を始めたきっかけは東西冷戦時代と呼ばれた社会秩序のもと、共産主義の東ドイツと民主主義の西ドイツを、心理学者という立場である程度自由に行き来ができたがゆえの気付きが発端だった。

自由の制限された東ドイツのバーカウンターで、「画家」と称するひとりの男が夢を描いていた。「いつかパリへ行き思いの向くまま気の向くまま好きなだけ描きに行くんだ。ルーブル美術館にも通うぞ!」と。

芸術活動すら制限されていたイデオロギー下、繁栄していると思われていた共産主義の東ドイツから出ることも簡単には出来ない環境下で、彼はポジティブな空想だけを頼りに、希望を捨てていなかった。それどころか、冷静に考えれば過去と今の厳しい現実を考えると、あり得ないところまで将来の夢を膨らませていた。

命の危険が迫るなか、あり得ないほど現実離れしたポジティブな空想が夢を描いた人と周りにいた人々を元気づけ、生きながらえたという話はよく聞く。それはまるで人間の性(さが)であるかのように思える。

でも、そうではない状況で、目標を達成している自分や夢を叶えた自分を、あり得ないほどの大成功を誰にも邪魔されず好きなだけ思い描くなら、その思考は人に影響を与えるのだろうか?

ガブリエル・エッティンゲン博士は研究を開始して、確かに影響することを突き止めた。だがそれは、私たちが期待してたものとは異なる、全く正反対の答えを導き出すことになった。

夢の達成にポジティブ思考は役立たない。

ポジティブ思考はきっと良い影響を及ぼすだろうと期待して始めた研究だったが、出てくるエビデンス(科学的証拠)は次から次へと全く正反対のものだった。

減量プログラムに參加する26人の肥満女性たちに、プログラム開始直前にアンケートの名目で「自分はどれほどダイエットに成功するか?」という設問と「どれほど成功するか?」という自分の成功イメージを具体的に文章にするよう促した。

「私はダイエットに成功する」ポジティブなグループと、「私はダイエットに失敗する」ネガティブなグループで比較した場合、確かにポジティブグループはネガティブグループよりダイエットを12㌔㌘多く成功させていた。

でも肝心なのはここからで、失敗する可能性を想像したポジティブグループと、まったく失敗しないと想像したハイパーポジティブグループとで比較した。それは驚くべきものだった。

なんと、ハイパーポジティブグループは平均1㌔㌘程度しかダイエット成功の平均体重に貢献出来ていなかったようなのだ。一方、失敗する可能性を想像したポジティブグループは23㌔㌘ということになる。合わせて平均12㌔㌘…なんということだ。

その後も様々な年代層に、就職、恋愛、病後のリハビリ、教育効果、麻薬中毒からの更生といった幅広い状況で、同様の結果が出た。もう誰もその研究結果を否定できない程になった。

ポジティブ思考は人が極限の状況に追い込まれたとき、そこで粘り、耐え、我慢し、生き抜くのには効果的なようだ。自由に描く夢は創作活動には欠かせない。自分が本当に望む生き方はどんなものかを探し見つけるのにも役だつようだ。だたし、ポジティブ思考はそのためのもの。

自分の大きな夢を実現させたい人が、その成功を、大成功を思い描き、全く失敗しないで夢を実現させることができると思い描くその夢は、現実離れすればするほど、その人自身の夢実現になんの役にも立たないか、むしろ夢達成の邪魔をする。

30年以上の長期間に及ぶガブリエル・エッティンゲン博士の研究は、最新の夢や目標達成支援のための教育プログラムを根本から改革するよう、人々を動かすことになった。

では、いったいどうすればよいのか?

参考記事

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